maclalalaweblog

2006年 10月 8日

アップルはアップルのままに:Eric Kim

Filed under: ひと — shiro @ 12:38

Eric Kim-1

[Eric B. Kim]

インテルがアップルをどう見ているかを示すおもしろい発言がある。

Infinite Loop:”Intel says ‘Let Apple be Apple’” by Jacqui Cheng:10月3日

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アップルのユーザー体験はクローズドプラットフォームでも構わない(その下部構造は複雑だとしても)。少なくともインテルの Eric Kim(Intel’s Digital Home Group)はそういっている。彼は日本の CEATEC[アジア最大級の通信・情報・映像の展示会、幕張メッセで開催]でレポーターに対しつぎのように語った。「明らかにアップルの目指すところは、最高の end-to-end のユーザー体験をクローズドシステムで与えることだ。彼らのやっていることはまさにそうだし、その点実に、立派にやっている。」さらに加えて次のように述べた。

Intel is cool with Apple keeping its entire user experience to a closed platform despite its underlying complexities, at least according to Eric Kim of Intel’s Digital Home Group. He told reporters at the CEATEC exhibition in Japan that “Clearly, Apple’s orientation is to deliver the best possible user experience from end to end by being closed. That’s what they do, and they are very, very good at it.” He went on to say:

インテル内部にはちょっとしたモットーがある。「アップルはアップルのままに」(Let Apple, be Apple.)というのだ。アップルと一緒に仕事ができて我々はうれしい。

“We have a little motto inside Intel: ‘Let Apple, be Apple.’ We are happy to serve them,” he said.

これは明らかに、アップル独自の秘密主義的プラットフォームを受け入れ、アップルに対する愛着を示すものだ。ところがその一方、他のエレクトロニクスメーカーに対してはインテルの Viiv を使ってオープン規格でやるようにと迫っている。理屈をいえば、ウインドウズプラットフォームはマーケットのそこら中に溢れているため、そのデバイスもマックほど流線形かつ効率的に繋がっていないので、そのデバイス間の互換性を確保しようということなのだ。

Despite this apparent love and acceptance of Apple’s secretive platform, Intel simultaneously pushed other electronics manufacturers to make use of open standards around Intel’s Viiv. Theoretically, this would be to ensure interoperability between devices on a platform (Windows) that, due to its ubiquitousness in the market, is not quite as streamlined with various devices as the Mac.

で、オープンスタンダードとクローズドスタンダードに二股かけた Eric Kim のこの見方に組することができるだろうか。彼がいっているようにまずひとつには、アップルのクローズドプラットフォームではユーザー体験のすべてのステップが完全にコントロール可能で、したがって最も合理的で流線形のアプローチが可能になるということだ。ところがそれは、我々マックユーザーには iPod のような使いやすい選択肢が必ずしもたくさんあるとは限らないということでもある。ところでみんなは、アップルがもっとオープンなスタンダードを採用する方がいいと考えるだろうか。

So, do we agree with Mr. Kim’s two-sided view of open versus closed standards? On one hand, as he said, Apple’s closed platform allows them to have full control of every step of the user experience and therefore create the most streamlined approach as possible. On the other hand, that means that us Mac users don’t always have as many choices that are as easy-to-use as our default iPods, for example. Would you guys prefer that Apple made use of a more open set of standards?

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サムスンから引き抜かれた Eric B. Kim は Paul S. Otellini を支えているグループのひとりだ。今回は上級副社長として来日した。

先日のインテルの Pat Gelsinger に続き、なかなかおもしろい。

たくさんのベンダーを相手にするインテルが、それぞれの相手にそれぞれのやり方で対応していることを示すものだろう。

興味深い発言にも拘らず、前回の Pat Gelsinger のときと比べて、記事に採り上げられた数は多くない。ざっと見てもつぎのとおりだ。

・Infinite Loop:”Intel says ‘Let Apple be Apple’” by Jacqui Cheng:10月3日

・TUAW:”Intel says, ‘Let Apple be Apple.’” by Scott McNulty:10月3日

・MacDailyNews:”Motto inside Intel: ‘Let Apple be Apple’“:10月3日

・Computerworld:”CEATEC: Intel praises Apple, but calls for open standards” by Sumner Lemon:10月3日

・ITworld.com:”Intel praises Apple, but calls for open standards” by Sumner Lemon:10月3日

・Macworld:”News: Intel praises Apple, but calls for open standards” by Sumner Lemon:10月3日

・Macworld UK:”CEATEC: Intel praises Apple, but calls for open standards“:10月3日

・MacNN:”Intel praises Apple, touts Viiv“:10月3日

・PC Pro:”News: Intel exec gives odd spin to Apple success” by Simon Aughton:10月4日

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タイトルをみただけで、これらの記事が二つのグループに別れることが分かる。(最後の PC Pro を除く。)”Let Apple be Apple” を掲げたものと、”Intel praises Apple, but calls for open standards” というタイトルの二つだ。

ところがソースを遡っていくと、いずれも IDG News Service の Sumner Lemon の記事にたどり着く。出所は同じなのに、どうして二つの流れになったのだろうか。

とくに後者の方は「インテルはアップルを褒めた、しかしオープンスタンダードを求めた」とあることから、これではアップルに対する注文と誤解してしまう。記事を読むと分かるが、褒めたのはアップルで、求めたのは日本のメーカーに対してなのだ。

いつもならアップルに関することはワッとニュースになるのに、この扱いはどうしたことだろう。

そもそも CEATEC は日本の幕張で行なわれたのだから、日本発のニュースはないかと探してみた。

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Eric Kim のアップルに関する発言は、日本ではほとんど記事になっていないのだ。

Eric Kim のキーノートは「テレビとパソコンの融合」(Convergence)という文脈の中で行なわれたようだ。

CEATEC 初日のキーノートを採り上げたのは山田祥平、小西利明、元麻布春男のお三方だけだ。

以下、それぞれの記事の一部を紹介させていただく。

Viivlogo-2

山田祥平のRe:config.sys

ここまでは、今までさんざん言われてきたことだが、キム氏は、Viivの派手な部分にはあまり興味がなさそうだ。というのも、現在のViivが、あまりにもWindows Media Center Editionに依存する部分が多すぎて、それがViivの普及の足を引っ張っているのではないかと指摘したところ、Intelがやるべきことは、テクノロジーを使った土台を作ることであり、ユーザーが直接扱うGUIなどは、本来、別のベンダーがやるべきことだという。もちろん、キム氏は、現在、Media Centerが提供するGUIが、きわめて原始的なものであり、それが崩壊してしまうのも時間の問題だという指摘には同意する。だからこそ、大手のコンテンツプロバイダは、革新的なGUIを用意し、ユーザーが、楽しみたいコンテンツを自由に選べるようにするだろうというのだ。彼の方針としては、Intelは、あくまでも縁の下の力持ちに徹するということらしい。・・・

キム氏は、Appleはきわめてクローズドな企業であり、すでに独自のコンテンツサービスを持っていて、そのクローズドな姿勢こそが、彼らの生業であるとする。Intelとしては、Appleに何かを提案するようなことはせずに、彼らの求めるものを提供していくのだという。だから、もし、iTunesがAppleの手によって10フィートGUI化するようなことがあっても、それが、Viivに統合されることはなさそうだ。[山田祥平のRe:config.sys:”Viivの行方“:10月4日]

ASCII 24(小西利明)

講演全般は、Viivを基盤としてすでに実現されている要素の披露が多く、目新しさには欠けた。また“TVとパソコンの融合”とははなはだしくかけ離れた日本のデジタル放送事情についての言及もなかったため、聴衆にどの程度、同社のビジョンへの理解や共感を与えることができたのかどうかは疑問が残る内容であった。CPUの世界を席巻し、さらにプラットフォーム全体の提供へと軸足を移す巨大企業インテルであっても、極めて独特かつある意味排他的な日本の放送と家電の世界に影響を与えるのは、簡単なことではないようである。[ASCII 24:”「人々はコンテンツが好き」——TVとパソコンの融合を説いたインテルの基調講演” by 小西利明[CEATEC JAPAN 2006レポート Vol.5]:10月3日]

元麻布春男の週刊PCホットライン

もちろん内容はデジタルホーム、コンシューマ向けのIntelプラットフォームである「Viiv」を中心としたものであった。が、これはKim副社長、あるいはIntelに限った話ではないのだが、米国企業の本社からきたスピーカーの発言は、日本市場の現状に即していないのではないか、あるいは日米間の相違にあまり敏感ではないのではないか、という思いを禁じ得ない。・・・

わが国でViivがどうしてもパッとしない印象なのは、Windows XP Media Center Editionを中核としたViivのソリューションが、日本の特殊事情(デジタル放送)に対応できないという問題に加え、日本のプラットフォームのあり方(安価なプラットフォームに、高品質なAV機能を組み合わせる)と合致しないからだ。

来日するIntel本社のエグゼクティブのスピーチにどうしても違和感を感じるのは、現状での違いを踏まえたものではないからではないかと思っている。同じ“Viiv”を米国流の“ヴァイブ”ではなく、“ヴィーブ”と呼ばせることに、日本のプラットフォームと米国のプラットフォームは似ているけど違うのだよ、という意味が込められていたのだとしたら、何という深謀遠慮だろう。[元麻布春男の週刊PCホットライン:”ViivVistaに感じる日米の齟齬“:10月5日]

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かくして、冒頭のベースとなっている Sumner Lemon の記事を再度見てみると、この記事は IDG News Service シンガポール支局の配信であり、記事を書いた Sumner Lemon は台北特派員であることが分かる。(ITworld.com

これから先は想像だが、つぎのような背景なのではないだろうか。

・Eric Kim は日本の特殊事情をよく理解しないまま(?)、テレビとパソコンの融合について説き、その中でポロリとアップルについて触れた。

・日本の聴衆は、日本の現状に即していないということで物足りなさを感じた。

・記事を書いた台北特派員 Sumner Lemon は、これまた日本の事情をよく理解しないまま(?)、Eric Kim のキーノートを平板に伝えた。

・アメリカのメディアは、材料としては Sumner Lemon の記事しかないので、そのまま「インテルはアップルを褒めた、しかしオープンスタンダードを求めた」として伝えるか、「アップルはアップルのままに」のおもしろさに飛びつくかの二つに別れた。

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アップルに関することならどんなことでも細大漏らさずニュースになるのに、今回の Eric Kim の発言は特異な伝わり方をしているように思える。”Let Apple be Apple” の部分だけがひとり歩きして、そのほかは忘れられていくのではないだろうか。

みんなが同じ場所にいて同じことを聴いているのに、聴いていることと伝わることが微妙に食い違うということは心しておくべきなのかもしれない。

インターネットのお蔭で、なんでもすぐに、すべてが分かるような気がしてしまい勝ちだが、意外に大きな陥穽(かんせい)があるのかもしれない。

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2件のコメント »

  1. いつも興味深く読ませていただいています。
    今回の一連の話を見てみると、Kim 氏が言いたかったのは、intel は Viiv プラットフォームに関してアップルのようにエンド・ユーザー・レベルで関わるのではなく、あくまで基盤技術の提供というレベルで関わるという姿勢ではないでしょうか。
    その意味では、日本市場の独自性云々はあまり関係ないように思います。それは、他のベンダーがやるべきだと言っているようですから。(それに、日本でヴァイヴと言わないのは、あまり品良く聞こえないからではないでしょうか)

    われわれ(笑)に関係のある話としては、やはり Let Apple be Apple のくだりで、これは intel がアップルの提供する一貫した合理的(streamline)ユーザー体験にコミットしていくつもりはない(おそらくは、その逆もまた真)という事ではないかと思います。

    ただ一つ気になるのは、Let Mac be Apple ではないという点です。Apple の iPod + iTunes (+iTV?) は Mac プラットフォームだけの問題ではないので、お茶の間(リビング?)で Apple と Viiv + α とが競合する可能性があるかもしれない。もしかしたら、Viiv 上のエンド・ユーザー体験を提供するのも Apple だという可能性もあるかも…。

    コメント by — 2006年 10月 9日 @ 20:56

  2. > む さん
    Viiv は 登場したときから気になっていますが その一方で なんとなく違和感も感じています
    当ブログでも 前に触れたことがありますが(12月20日) その後も やっぱりしっくりしません
    インテルの姿勢そのものに 起因する部分もあるのではないか と考えたりしています

    コメント by shiro — 2006年 10月 9日 @ 23:40


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