仲代達矢氏の眼は独特だ。
どんなにひとがスクリーンに溢れていてもすぐ分かる。眼は俳優仲代達矢の大いなる資産だ。
その眼が暗さを秘めていた時代のことを仲代達矢氏が語っている。(「私の履歴書」日経新聞、11月29日)
家計を助けるため、いろいろな仕事についていた定時制高校のころの話だ。
小学校の用務員の仕事もした。・・・教師たちの話が聞こえてくる。「民主主義」「平等」「平和」。新時代にふさわしい瑞々(みずみず)しい言葉が飛び交っていた。・・・
ある日、みんなのコロッケを買ってくるよう頼まれた。手にした袋からソースのにおいが立ち上がる。いつも腹をすかせていた私は唾(つば)を飲んだ。職員室に戻ってその袋を渡したが、誰一人として「ひとつどうだい」という教師はいない。優しさや思いやりがすっぽりと抜け落ちた部屋の隅で、暗い目をしていた。
俳優としての高みを極めた仲代氏だが、その眼はいろいろなものを映しているのだと思った。
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